散策回想
散策回想について †
散策において、特定の2名の文豪の信頼度を120にすると特別な回想が獲得できる。
組み合わせは次項の表を参照。回想を未取得の場合でも、組み合わせが回想図鑑の一覧から参照できる。
回想一覧 †
会話 †
- 『人間合格』(佐藤春夫、太宰治)
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内容 |
佐藤春夫 | 太宰、最近は安定しているようだな |
太宰治 | 春夫先生、わかりますか! 最近それしみじみと感じるんですよ! 美味いもの食って安心して眠れるだけで人間こんなに元気になれるなんて、これすごい新発見です ある意味俺のアイデンティティーが崩れつつあるのかもしれないんですけど、その辺どう思いますか春夫先生! |
佐藤春夫 | 変わってないところは変わってないからな…… この間、金を都合して欲しいって俺に泣きついてきた時も思った。 ああ、こういうこと昔にもあったなって |
太宰治 | あっ、その話は……! あれはちょっとした間違いで…… |
佐藤春夫 | 落ち着け。ま、それでも少しずつ成長していると思うよ、やっと「人間合格」になってきたってことだな |
太宰治 | は、春夫先生が褒めてくれた……! う、嬉しい…… |
佐藤春夫 | ……太宰、お前は破滅しかできないって思っていた。だが今は違う。 いろんなものが、少しずつ変わっていく。 お前がそんな小説を書いてきたように。俺も、お前もな |
太宰治 | う、うう……ありがどうございまず…… |
佐藤春夫 | ほら、泣くなって |
太宰治 | ……俺、ここにいていいのかもしれない、今、やっと、思えました |
佐藤春夫 | はっ、今更そんなことに気づくんだな…… 今のその気持、忘れんじゃないぞ |
- 『直談判』(北原白秋、萩原朔太郎)
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内容 |
北原白秋 | 朔太郎くん、最近見かけないなと思っていたけど、元気かい? |
萩原朔太郎 | 白秋先生、どうして返事をくれないんですか……何度も何度も書いたのに……返事をくださいって できた詩も送ったのに……もう僕の才能なんて枯れたってことですか…… |
北原白秋 | それで、いてもたってもいられなくなって直談判に来たっていうことかい? |
萩原朔太郎 | え、あ、そ、それは……違うんですそうじゃなくて……詩が……詩が書けなくて…… |
北原白秋 | やれやれ。これ、何だと思う? |
萩原朔太郎 | も、もしかして……返事ですか!? |
北原白秋 | 違うよ。今までに君が送ってきた詩だ いいやつをまとめておいたんだが、返すタイミングを逸していてね 引きこもる君のことを司書が心配していると聞いたから、返すにはいい頃合いだと思っていたんだ |
萩原朔太郎 | これ……うう……先生……えぐっ、ありがどうございまず…… |
北原白秋 | 自分のした仕事に自信を持つのは、自分の仕事だろう? いちいち人の手を煩わせるんじゃない |
萩原朔太郎 | うう……ぐす、ぐす……白秋先生…… |
北原白秋 | ……どうやら引きこもりすぎて人との話し方を忘れてしまったようだね まあ、部屋から出てきたことはいいことだろう。君にとっては一歩前進だ |
- 『自転車』(志賀直哉、武者小路実篤)
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内容 |
志賀直哉 | 手ぇ離すぞ、武者! |
武者小路実篤 | むむ…… どうだい志賀ー!これはもう完璧と言ってもいいんじゃないかなー! |
志賀直哉 | ……ああ、いいんじゃねーのかぁ!想像通り手がかかったが |
武者小路実篤 | ついに乗れるようになっちゃったね!自転車! |
志賀直哉 | ああ、免許皆伝だな |
武者小路実篤 | よーし司書さんにも祝ってもらおう、知らない間に心配されちゃってたみたいだから |
志賀直哉 | あれだけコケてたのを見たら心配もするだろうな…… まあ、よく諦めずにやったもんだよ |
武者小路実篤 | ふふん、僕にかかればこんなの簡単だよ!じゃ、このまま街までいこう! |
志賀直哉 | え、今からか?いまからじゃあんまり遠くまで行けねえぞ? |
武者小路実篤 | いいからいいから! |
志賀直哉 | わーったわーった、ついでに買いものでもしに行くか |
- 『この間のこと』(田山花袋、森鴎外)
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内容 |
田山花袋 | 森先生、お疲れ様です! |
森鴎外 | 田山君、大丈夫か? この間の傷は |
田山花袋 | え……はは! もうすっかり元気です! |
森鴎外 | ふっ、やはり君はそうでなくてはな…… |
田山花袋 | え、あの、なぜ今笑ったんですか |
森鴎外 | いや、特に意味はない。医者として役割ができたという感慨だ いつも元気なはずの君がこの間運ばれてきた時は、相当まいっていたようだからな |
田山花袋 | ……先生には何度もお世話になってしまっていますね こちらとしては恥ずかしい限りなんですけど! |
森鴎外 | そんな些細な事は気にしなくていい、そのままで十分だ。それが君の主義だろう? |
田山花袋 | はは。まあそうなんですけどね……! |
- 『悩み』(国木田独歩、正宗白鳥)
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内容 |
国木田独歩 | なあ白鳥。白鳥って内心、自分が自然主義者だって言われること…… 嫌いなんだろ? |
正宗白鳥 | 突然何を言い出すかと思えば…… |
国木田独歩 | 独歩さんの目はごまかせないからな。悩みがあるなら聞くぜ? |
正宗白鳥 | 悩みはない。ここでの俺は何者か、それは確かに考えていた そして自然主義の人間だという結論を出した。これは納得の上だ。 実際、意図しない方向に評価されるなんて、アタリマエのことだからな |
国木田独歩 | ……ははっ、そうかそうか、おせっかいだったか |
正宗白鳥 | 独歩……前々から言おうと思っていたが、お前の世話焼きは空回っている |
国木田独歩 | は? 俺の親切心を無下にするつもりかよ? |
正宗白鳥 | そうではない。それはありがたく受け取った。そしてこれはこちらの親切心だ お前の面倒見の良さは美徳だが、俺に対してそんな気遣いは無用だ |
国木田独歩 | はあ、俺の助言はいらないってか……傷つくわ…… |
正宗白鳥 | ああ、だからこちらも言うべきか迷った。その面倒見の良さは他に宛ててやれ |
国木田独歩 | わかったわかった。やれやれ、わざわざそんなこと言わなくていいってのに…… ま、そこがアンタらしいところかね |
- 『取材』(国木田独歩、島崎藤村)
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内容 |
島崎藤村 | 司書さんの取材、完了したよ |
国木田独歩 | どーよ、首尾の方は? |
島崎藤村 | スクープってほどじゃないけど、いい題材が拾えた。意外な一面てやつだね |
国木田独歩 | 何が聞けたんだ? |
島崎藤村 | 一日のスケジュールとか、仕事内容とか……あと仕事の愚痴とか、給料がどうとか |
国木田独歩 | そうか……大変なんだな よし、じゃあ久しぶりに新聞作るか。まあ、愚痴とかは抜いておいてな |
島崎藤村 | そうだね、普段の仕事ぶりがみんなに伝わるんじゃないかな |
国木田独歩 | あ、いいこと思いついた!連中から「ねぎらいの証言」を集めてやろうよ |
島崎藤村 | 普段お世話になってるお礼だね、すごくいいと思う |
国木田独歩 | だろ? さすが独歩さんだな。じゃ、さっそく追加取材だ! |
- 『刺激』(佐藤春夫、谷崎潤一郎)
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内容 |
佐藤春夫 | 谷崎、どうしたんだ、なんだ珍しく真剣な顔して |
谷崎潤一郎 | 春夫さん、聞いてください。 私は以前、よい小説を書くための「刺激」が欲しいという話をしましたよね |
佐藤春夫 | ……そういや、そんなことを言ってたこともあったな。理想の女がなんたらって |
谷崎潤一郎 | ええ、そのことを司書さんにも相談したのです。 するとその欲求不満を創作意欲にすればいいのでは、と言われました |
佐藤春夫 | そりゃそうだよな。で、その当たり前の事実について俺になんて言って欲しいんだ |
谷崎潤一郎 | いえ、私には大発見でしたので、ただこの感動を聞いていただきたいと考えたのです 今まで己の願望が満たされなかったことはなかったので、その発想には至りませんでした。 目からウロコです |
佐藤春夫 | やれやれ。お前は幸せなやつだよ、もっとその自覚を持つべきだ 周りを見ろ、脳内で創り上げた存在しない理想の女との恋をして満足するやつばかりなんだぞ |
谷崎潤一郎 | まあ、そうだったのですか……みなさんも苦労されているんですね。知りませんでした |
佐藤春夫 | お前の苦労とは違う気もするがな…… とにかくだ、その新境地にいけたんだからいい小説も書けるだろ |
谷崎潤一郎 | ええ、安心しました。 さっそく、次に生まれ変われる事があれば美しい女性の靴になりたいと強く願いながら書いてみます |
佐藤春夫 | なんだその、やたら具体的で業が深い願望…… |
- 『檸檬』(梶井基次郎、三好達治)
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内容 |
梶井基次郎 | ふふ、今日も綺麗だなあ |
三好達治 | また檸檬を眺めている…… |
梶井基次郎 | 司書さんにもらったんだ、とびきり良い檸檬をね。あの人はよく分かる人だ |
三好達治 | へえ、そんなにいいんだ |
梶井基次郎 | あげないよ |
三好達治 | ……何も言ってないけど |
梶井基次郎 | 油断ならないからねぇ、君は。人のものも自分のものだって思っているんだから |
三好達治 | そう言う梶は「自分じゃないもの」も自分だって思っているんだろ さっきも鏡の中の自分を見るように檸檬を見てたじゃないか |
梶井基次郎 | やれやれ、なぜそういう正論じみたことばかり言うかな そんなに欲しいなら君も司書さんにもらいに行くといい。きっと君の檸檬をくれるはずだよ |
三好達治 | はいはい、そうすることにするよ |
- 『健康』(中野重治、堀辰雄)
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内容 |
中野重治 | 辰、そういえば、最近はハキハキ喋るようになったよね |
堀辰雄 | え、そうかな? |
中野重治 | 話しているとわかるよ。ここで色んな人と過ごすことで自信をもったってことだね |
堀辰雄 | うーん……でも、しげじが言うならそうなのかも |
中野重治 | あはは、自覚、なかったんだ。司書さんも同じことを言っていたから確かだよ でもまあ、そうだね、こういうことは自分じゃ気づかないかな……どうしたの? |
堀辰雄 | ううん。しげじこそ、そんな風に笑うなんて以前はなかったな……って思ったんだ |
中野重治 | ……そうだね、僕はずいぶんと健康的になったみたいだ |
堀辰雄 | 人のことが言えないね、しげじ。よかったよ、人間、健康が一番だからね |
中野重治 | 健康が一番……か。君が言うと重みが違うね。うん、覚えておくよ |
- 『ストレス解消』(吉川英治、菊池寛)
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内容 |
吉川英治 | おーい、菊池! |
菊池寛 | ………… |
吉川英治 | む……どうやら「くちきかん」になってるようだ また賭け事に負けたのか。ストレス解消のための趣味でストレスを貯めているのでは話しにならんな |
菊池寛 | ……うるさい、聞こえてるぞ |
吉川英治 | 聞こえるように言ったのだ。司書殿も言っていたぞ、菊池はギャンブルを控えるべきだと |
菊池寛 | なんだ司書のやつ、俺にだけそんなこと言ったのかよ アンタだってやってるじゃねーか、何気に強いしよ |
吉川英治 | それだけ「くちきかん」の態度が目立っているということだろう それに、我はどこかのギャンブル好きがやりたいと言うから付き合ってやってるだけだ |
菊池寛 | ………………………………………… |
吉川英治 | やれやれ、どうだ?共に走り込みでも。ストレス解消になるぞ。たまには我の趣味にも付き合え |
菊池寛 | はあ、わかったよ…… |
- 『大人』(新美南吉、宮沢賢治)
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内容 |
宮沢賢治 | あ、南吉! やっと見つけた! |
新美南吉 | あーあ、見つかっちゃった |
宮沢賢治 | でも、南吉が最後だよ。南吉は隠れるのが本当に上手だよね |
新美南吉 | えへへへ、司書さんたちが下手なんだよ |
宮沢賢治 | さあ戻ろう、みんな待ってるよ |
新美南吉 | ……ねえ、けんちゃん。さっき考えていたことなんだけどね |
宮沢賢治 | どうしたの、南吉 |
新美南吉 | みんなと一緒に遊ぶって、とっても楽しいなーって |
宮沢賢治 | ふふ、そうだね南吉。ここじゃ誰も南吉をいじめない、いい大人だもんね |
新美南吉 | ね、けんちゃん。ぼく、あんな大人にならなってもいいかなって思えるんだ |
宮沢賢治 | ……ボクも、みんなには内緒だけどね。さ、次は司書さんが鬼だよ。早くいこう! |
新美南吉 | うん! |
- 『兄弟弟子』(泉鏡花、徳田秋声)
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内容 |
徳田秋声 | 鏡花……また説教かい? |
泉鏡花 | いえ、謝りに来たのです。このあいだのことで 僕はあなたが恩義を知らない人間だと決めつけ、あなたを傷つけました…… |
徳田秋声 | ……ああ、そんなこと。気にしなくていいよ。君と比べたら恩義を知らないのは確かだし |
泉鏡花 | それだけじゃありません……あの時あなたは、僕ほど先生の教えを実践できなかったと言っていました あなたは僕が思っていなかったところで、ずいぶんと苦しんでいたのですね……全く思いもよりませんでした |
徳田秋声 | 別に……そこは君が気にすることじゃないけど……あれは結局僕だけの問題だし…… |
泉鏡花 | いえ、僕はあなたのことを全く理解しようとしていませんでした……兄弟子失格ですね |
徳田秋声 | いいって! 確かに僕は君が嫌いだ、君も僕を嫌っている…… でも、それだけじゃないことくらいわかってるよ |
泉鏡花 | ありがとうございます。……僕もあなたのことはよい好敵手だと思っています |
徳田秋声 | ……ここらで過去のことは水に流そうよ、そのほうがお互い平和に過ごせるしね |
泉鏡花 | そうですね、……と言いたいところですが、あなたの紅葉先生への態度はやはり許容できません |
徳田秋声 | ……え、いいじゃないか。一緒に水に流してくれよ |
泉鏡花 | それとこれとは話が別です 今後も敬意が欠けた態度をとり続ける場合、ぶん殴りますから。警告しましたよ |
徳田秋声 | ちょっ、止めてくれ……君は先生に似て、すぐに手が出るんだから! |
- 『恐怖』(小泉八雲、江戸川乱歩)
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内容 |
江戸川乱歩 | 八雲さん……ちょっとよろしいですか |
小泉八雲 | どうしました乱歩サン、すごく嬉しそうデス |
江戸川乱歩 | おや、ワタクシとしたことが、顔に出ていましたかね…… 実は、新しいトリックを執筆してみたのですよ! |
小泉八雲 | ほう、これはこれは…… |
小泉八雲 | あなや、血も涙もない恐怖の極み、しかし切なさの残る読後感! |
江戸川乱歩 | 如何でしょう? 満足して頂けましたか? |
小泉八雲 | ええ、素晴らしいデス |
江戸川乱歩 | フッフッフッ、当然でしょう。八雲さんの言う余韻を効果的に演出すべく研究を重ねましたからね |
小泉八雲 | そういえばそんなことも言いマシタが……よっぽど気にしていたのデスね |
江戸川乱歩 | ……そんなことはありませんよ。観衆の要望に応えることはワタクシの仕事ですから |
小泉八雲 | ナルホド、お見それしマシタ……デス! |
- 『これから』(小林多喜二、中野重治)
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内容 |
小林多喜二 | ……なあ重治、まだ悪夢を見るのか? |
中野重治 | ううん……今はほとんどないよ。それに最近は昔のこと、あまり考えなくなったんだ すごいと思わないかい、これは大きな進歩だよ |
小林多喜二 | はは、それはよかった。安心したよ、重治からそんな言葉を聞けるなんて 今までそんなこと言わなかった |
中野重治 | 多喜二こそ、司書さんが言っていたよ。信頼してもらえたみたいで安心したって |
小林多喜二 | う、知らず知らずのうちに心配されていたんだな。そんなつもりはなかったんだが |
中野重治 | あはは、意外と人見知りだよね |
小林多喜二 | と、とにかく、重治が元気で本当によかったよ |
中野重治 | ……今までみんなに心配かけてしまったから。特に君にはよそよそしいこともあったと思う でももう大丈夫、過去は乗り越えられるってわかったしね |
小林多喜二 | 気にするなよ。これからのことを考えればいいんだ。未来のことをさ |
中野重治 | うん、多喜二……ありがとう |
- 『無意識の存在』(中島敦、江戸川乱歩)
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内容 |
中島敦 | ……乱歩さん |
江戸川乱歩 | おや中島さん、珍しいですね。アナタから話しかけて頂くのは。どうかしましたか? |
中島敦 | 最近は何も聞いてきませんよね、彼のこと |
江戸川乱歩 | フッフッフ、そのことですか。実は諦めたのですよ |
中島敦 | 諦めた? 嘘でしょう、あんなにしつこ……何度も聞いてきましたよね |
江戸川乱歩 | いやはや、世の中には未だ説明のつかない不思議がたくさんありますからねえ アナタの二重人格についてもその一つだと思ったのみです。 |
中島敦 | 彼が何か言ったんですか? |
江戸川乱歩 | いいえ、何度かまとわりついて話を聞こうとしたのですが。アナタについてはなにも |
中島敦 | そうですか……正直、失望しました。もしかしたら彼のことがわかるのではないかと思っていたのですが…… |
江戸川乱歩 | 手厳しいですね。とはいえ、アナタという人間のトリックは見えましたよ。 実に簡単なことで、中島さんの無意識の領域がもう一人の中島さん、それだけの話なのではないかと |
中島敦 | ……実は私もそういうふうに、思い始めていました |
江戸川乱歩 | ま、人間の自己意識というのは実はあやふやなものですからね だからこそ、魅了されるのが人間というものですよ |
中島敦 | ………… |
- 『連想ゲーム』(中原中也、宮沢賢治)
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内容 |
宮沢賢治 | 中也くーん、あーそーぼー |
中原中也 | おう先生、今日は何で遊ぶんだ? |
宮沢賢治 | 今日はお天気だから、ちょっと遠出して連想ゲームをしようよ |
中原中也 | 連想ゲーム? |
宮沢賢治 | うん、お互いに見たものの印象をつなげていって、それで詩を創るの |
中原中也 | 即興詩か、最高のアイデアじゃねえか! |
宮沢賢治 | でしょ?中也くんとなら、とってもいい詩ができると思うんだ |
中原中也 | 賢治先生と合作できるなんて夢みてえじゃねえか…… |
宮沢賢治 | じゃあ決まり!絶対楽しい心象スケッチになるよ! |
- 『借金王の挟持』(石川啄木、高村光太郎)
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内容 |
石川啄木 | 高村ぁ! |
高村光太郎 | 石川くん、お金のことは…… |
石川啄木 | それそれ、金を返しに来たんだよ! |
高村光太郎 | えっ!? |
石川啄木 | 借りたものは返さなきゃ駄目だからな 司書の手伝い死ぬほど頑張ったんだぜ? |
高村光太郎 | ……僕は君のことを誤解してたみたいだ 借りたお金を返したことだけでもすごいのに、そんな言葉が聞けるなんて…… |
石川啄木 | お、おう…… |
高村光太郎 | 僕は「これでいい歌を作れるなら」と思って、君にお金をあげたつもりだったんだ |
石川啄木 | だから白秋とかと違ってうるさくなかったのか…… |
高村光太郎 | うん、返ってくるなんて夢にも思っていなかったよ 石川くんはちゃんと借金を返すことができる人なんだね……みんなに伝えてくるよ |
石川啄木 | こっぱずかしいからやめてくれ! |
- 『鶴の詩』(萩原朔太郎、室生犀星)
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内容 |
萩原朔太郎 | 犀、みてよこれ |
室生犀星 | これは……折り鶴? これ、朔が作ったのか!? すごいじゃないか! |
萩原朔太郎 | うん……ありがと、司書さんに折り方を教えてもらったんだ、よかったら受け取ってよ |
室生犀星 | ああ……珍しいな。どうしたんだ? |
萩原朔太郎 | いつも助けてもらってばかりの犀に何かしてあげたいって相談したんだ 自分には詩があるけど……それだけじゃだめで、しっかりしなきゃいけないって 犀に甘えてばかりじゃいられないと思って…… |
室生犀星 | ……あー、なるほどな。自分でも頑張ればできるってことを見せたかったんだな |
萩原朔太郎 | そう、そういうこと…… |
室生犀星 | はは、ありがとな。これ、一生懸命練習したんだろ? じゃあ俺はこれを眺めながら詩でも書くかな |
萩原朔太郎 | ほんと? 絶対だからね、鶴が恩返しに来るような小説じゃダメだよ |
室生犀星 | わかった、わかったって。鶴の詩を書くよ |
萩原朔太郎 | 犀は詩人なんだからね……約束だよ |
- 『最高の酒』(若山牧水、石川啄木)
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内容 |
石川啄木 | ぼっさーん、飲もうぜ! |
若山牧水 | お、どうしたんだその酒。景気がよさそうじゃねえか |
石川啄木 | へへ、なんだと思うよ? |
若山牧水 | 俺へのちょっと早い誕生日プレゼントとか? |
石川啄木 | 残念、不正解。ヒントは、俺様が大手を振って道を歩けるようになることだ |
若山牧水 | えっ、借金を返したのか!? へーえ、人間変わるもんだなあ |
石川啄木 | ……この酒をくれた時の司書と同じことを言ってら |
若山牧水 | はは……とにかく今日はすばらしい日だ!飲もう飲もう! いつも言ってたじゃないか、人の金……あれ違うか、人の幸せで飲む酒は最高だってな! |
- 『歴史』(直木三十五、吉川英治)
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内容 |
吉川英治 | おい直木、珍しく座って本を読んでいるな。調べ物か? |
直木三十五 | 例の宮本武蔵について調べているんだが、煮詰まっててな…… そうだエイジ、何か面白い話、知らないか? |
吉川英治 | ほう……例えばどういう話だ? 箸で蝿を捕まえた話か? 巌流島にわざと遅刻したという話か? |
直木三十五 | ああ、そういうやつだ……って、ちょっと待て! それ全部オマエの小説の中の話だろ! |
吉川英治 | ……はっ、そうだった! いやはや、転生して記憶が混濁しているようだ 己が創り上げたことを本当のことだと勘違いしてしまうとはな |
直木三十五 | ウソネタをしたり顔で語りやがって…… そもそもオレが宮本武蔵を調べようとしたのに、 お前の書いた話ばかりで調べ物になんねーんだよ! |
吉川英治 | はっはっは! 我が書いた小説が「歴史」となって残されてしまった……というわけだな! |
直木三十五 | はっはっはっは! じゃねーよ。責任とれよおい |
吉川英治 | 残念だが、歴史とは得てしてそういうものだ…… 直木も分かっているだろう、正しい歴史などないからな |
直木三十五 | 開き直りやがった……ったく……ある意味うらやましいぜ 「小説」が「歴史」になっちまうほどウケたってことだもんな |
吉川英治 | それもこれも直木が宮本武蔵論争をふっかけてきたおかげだ、感謝しているぞ |
- 『闇の女』(織田作之助、坂口安吾)
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内容 |
織田作之助 | 安吾ー! 大丈夫なん? 誰かと話しとったけど |
坂口安吾 | ああ、あの闇の女と和解したんだよ。もう追い回されることも無いハズだ |
織田作之助 | そ、そうか……そらよかったな…… |
坂口安吾 | あ? その顔は何だ、さては信じてないな? |
織田作之助 | いや……最近はこんな平和な場所でもその闇の女が見えるねんなって……ほんま大丈夫か? |
坂口安吾 | やれやれ、これは俺がちゃんと堕落できている証拠だぜ? 安心していいぞ |
織田作之助 | せやな……なんとなくわかってきたで |
坂口安吾 | やれやれ、やっと俺が信用に足る人間だということを理解したようだな 今度紹介してやるよ。お前みたいな堕落した人間には奴が見えるはずだ |
織田作之助 | なんや、ワシを安吾と同類にしよってからに…… って、めちゃめちゃ仲ようなっとるやん! はあ、ツッコミが追いつけへんわ |
- 『柿食へば』(夏目漱石、正岡子規)
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内容 |
正岡子規 | おい夏目、なに食ってるんだ? |
夏目漱石 | 干し柿だよ。司書さんに貰ったんだ。正岡も食べるかい |
正岡子規 | なるほど柿ね…… 柿食へば 鐘がなるなり 法隆寺 |
夏目漱石 | はっは、正岡といえばそれだね |
正岡子規 | この状況、言わなきゃいけないと思ってな…… |
夏目漱石 | その句もすっかり有名になったね。奈良の法隆寺も、体のいい宣伝文句を得たわけだ |
正岡子規 | うーん、うまい。昔を思い出すな。またふらっとどこかに行きたくなるよ…… |
夏目漱石 | ……柿食ひて 旅情わきたつ 日暮れかな |
正岡子規 | 二十五点 |
夏目漱石 | 随分と低いじゃあないか。この短時間で思いついたんだから、もう少しあってもいいだろう |
正岡子規 | 旅に出たいって余韻が最後でぶん投げられてるだろ……もっとひねりが欲しいな |
夏目漱石 | まったく、わがままなやつだよ |
正岡子規 | なに言ってるんだ。俳句には十七文字しかない、一字の無駄も許されないんだぞ 余計な文字や表現は頭に林檎大の「こぶ」がついている人間くらい見苦しい 少しの妥協が俳句全体の調和を乱すんだからな! |
夏目漱石 | 句を詠みて こぶを説きたる 故友(こゆう)かな |
正岡子規 | ちょ、おい夏目、それで一本取ったつもりか! それは俳句じゃないっての! |
- 『悪人』(井伏鱒二、太宰治)
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内容 |
太宰治 | 井伏先生…… |
井伏鱒二 | どうした太宰? |
太宰治 | 俺、ちょっと思い出したことがありまして……えっと…… |
井伏鱒二 | どうした珍しく言葉に詰まって |
太宰治 | う……俺、先生のこと悪人呼ばわりしてた気がしたんです |
井伏鱒二 | ……ああ。そのことか。知ってたよ |
太宰治 | 俺、そんなこと本心で思ってませんから!! これだけは信じて下さい、一時の気の迷いなんですっ!! |
井伏鱒二 | わかったわかった。何も言わなくていいよ、怒ってないから それに、俺は確かに悪人だからな |
太宰治 | うう……またそんなこと…… |
井伏鱒二 | はは。安心しろ。そんなことでお前を嫌うわけない だがお前が自分から謝ってきてくれたことは素直に嬉しいよ。こっちも気にしていたからな |
太宰治 | よかった……俺、井伏先生に一生ついていきます…… |
- 『気遣い』(芥川龍之介、堀辰雄)
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内容 |
堀辰雄 | 芥川さん、最近調子が良さそうですね |
芥川龍之介 | まあ、ここも長いからね、司書さんや辰ちゃんこも良くしてくれてるし |
堀辰雄 | ふふ、そうですか。それはよかったです |
芥川龍之介 | ……辰ちゃんこはいい子だね、でもそんなに遠慮しなくてもいいんだよ |
堀辰雄 | えっ、そう見えましたか? |
芥川龍之介 | うん、いつかの君ならわざわざ調子がいいかなんて聞かなかっただろう? 君、僕に対してわざと距離をとっているよね |
堀辰雄 | う……気づいていましたか |
芥川龍之介 | だって分かりやすいんだもの。でも、辰ちゃんこは僕を頼ってくれたほうが嬉しいな 君が何を考えて僕に遠慮してしまうのか、それはなんとなくわかってる でも大丈夫だよ。それに、今は対等な関係でもあるんだからね |
堀辰雄 | ……はい、すみません、司書さんも同じようなことを言っていました 僕、芥川さんに気を遣っていたつもりが、芥川さんに気を遣わせていたみたいですね |
芥川龍之介 | ……僕も君の支えになるつもりさ。ともかく、これからも頼りにしているよ、よろしく辰ちゃんこ |
堀辰雄 | はいっ、よろしくお願いします! |
- 『傑作』(二葉亭四迷、坪内逍遥)
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内容 |
二葉亭四迷 | 逍遥さん…何も言わずにこれを見て下さい |
坪内逍遥 | おや、今回は出だしだけではないのだね…… |
二葉亭四迷 | ああ……何かを掴めたような気がしたから、珍しく最後まで書いてみました |
坪内逍遥 | ほう……これは…… ついにやったね四迷君。素晴らしいサプライズだよ |
二葉亭四迷 | ああ、ついに逍遥さんの驚く顔が見れた |
坪内逍遥 | どうやら君の文学に対する態度はすでにライフワークとなっているようだね |
二葉亭四迷 | ……否定できないな |
坪内逍遥 | 君はいつもジレンマの渦中にいて、窮屈な閉塞感に苦しんでいた それが文学で解放できたのなら、私にとってこれほど嬉しいことはないよ |
二葉亭四迷 | スパシーバ……逍遥さんにはいつも励ましてもらった。感謝してもしきれない |
坪内逍遥 | 何を言うんだい、私と君の仲じゃないか。礼を言うのはこちらだよ ……本当によいものを見せてもらった |
二葉亭四迷 | ……今日はきっとよく眠れるでしょう |
- 『虚像と実像』(永井荷風、佐藤春夫)
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内容 |
永井荷風 | 佐藤君、待ちたまえ |
佐藤春夫 | 永井さん、怖い顔していきなりなんだ |
永井荷風 | 以前君が言ったことについて一言いいにきたんだ あの時、君への悪口を書いた僕の日記を見て失望したと言っていた。そうだろう? |
佐藤春夫 | 永井さん、もしかしてあんた酔ってるのか? |
永井荷風 | どうなんだい? |
佐藤春夫 | それは……たしかに言ったな。そんな低俗な人間だったのか……ってな |
永井荷風 | なるほど君も尊敬する作家はできた人間であってほしいって願望があったわけだね どうせだからここではっきりさせておこう。残念ながら僕はそんな聖人君子ではない |
佐藤春夫 | 酒の勢いで何をいいに来たのかと思ったら…… |
永井荷風 | 目をそらしたということは認めたということでいいかな? |
佐藤春夫 | ……ああ、認めるよ。俺も熱烈な愛読者にありがちな、主人公と作者像をごっちゃにしていたんだ だからあんたの大人げない行動にはがっかりした |
永井荷風 | ほう、それが聞けて僕の溜飲が下がったよ。残念だったね 結局は司書が言っていたとおりだったわけだ。礼を言わなきゃならないな |
佐藤春夫 | よくわからないが、否定しないんだな |
永井荷風 | 何を勘違いしているのかな。勝手に決別めいたことを言い捨てて去っていった君に今更言うことなんて無いよ |
佐藤春夫 | ……そうだな |
- 『堪忍袋』(坂口安吾、三好達治)
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内容 |
三好達治 | 安吾! ちょっとそこに座るッス |
坂口安吾 | うっ、なんだ三好 |
三好達治 | お前の部屋、いつから掃除してないんスか |
坂口安吾 | いつからって、最初から? |
三好達治 | ………… |
坂口安吾 | いや、だって。散らかっていたほうがいろいろ捗るんだよ…… |
三好達治 | だってじゃない! というか、散らかってるから自分の部屋に上がり込むッスね? 勝手に私物を持ち込んで。引き取らないと全部捨てるッスよ |
坂口安吾 | あーそれな。この間、部屋に道を作っておいたから大丈夫だ、後で行く |
三好達治 | なんで部屋に道があるッスか! |
坂口安吾 | いや、寝る場所がなくなったから…… あっ、ちょっと、その鬼の形相やめてくれよ |
三好達治 | もう我慢ならない……これから掃除しに行くッス! |
坂口安吾 | わかった、掃除するから! 頼むからやめてくれ!! |
- 『本当の自分』(小川未明、坪内逍遥)
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内容 |
小川未明 | 逍遥さん…… |
坪内逍遥 | お、どうしたんだい、未明君。神妙な面持ちで |
小川未明 | あの、僕、ずっと考えていたんです。思い通りにいかないことが、楽しいってどういうことか |
坪内逍遥 | そんな話をしたこともあったね。それで、どう思ったんだい? |
小川未明 | はい。それで逍遥さんみたいになりたいって考えました。でも、やっぱり嫌な人はイライラしてしまって……。それだけじゃなくて、仲良しの人にも怒ったり、嫌味を言ってしまうんです。気をつけているのに |
坪内逍遥 | ああ……少し誤解を与えてしまったかな。別に私は未明君が誰とでも仲良くならなきゃいけないとも、仲良しの人にも嫌味を言っちゃいけないとも思っていないよ |
小川未明 | え……? でも、振り回されても楽しいものだって、逍遥さんは…… |
坪内逍遥 | はい。他人の感情に振り回される、それも人情の一つだと私は思っているからね。でも自分に余裕を持つというのは、人に合わせながら付き合うこととは違うよ |
小川未明 | ………… |
坪内逍遥 | ふふ、納得いかない顔ですね。違いますか? |
小川未明 | でも、僕はどうしても人とぶつかっちゃいます…… |
坪内逍遥 | いいじゃないか、ぶつかっても。後でしまったと思ったのなら、謝ればいいのだから。君はむしろ、思ったことをもっと正直に言う勇気を持つべきだよ |
小川未明 | ……そうですね。ありがとうございます、逍遥さん。これからは、少しだけ勇気を出してみることにします |
坪内逍遥 | そうそう、その調子だ。私もささやかながら応援しているよ。君が周りに対しても、自分に対しても楽しめるようになることをね |
- 『饒舌な日』(川端康成、横光利一)
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内容 |
川端康成 | そういえば利一、聞いてください。良い壺を頂いたのです…… 古代の文様を現代的にアレンジしたものだそうで、少しヒビが入っているのですが…… ……なぜ笑っているのですか? |
横光利一 | ああ、すまない……いや、今日はよく喋るなと思ってな |
川端康成 | ……そんなにでしたか |
横光利一 | そうだな。……いや、今日だけではない、実際に川端はよく喋るようになっている |
川端康成 | ……そう、でしょうか |
横光利一 | ああ。少しずつだが、確実にな やはりここで過ごすうちに変わってきたのだろうな |
川端康成 | ………… |
横光利一 | はは、朋友のことだ。そうでなくても川端はわかりやすいからな |
川端康成 | 私も利一のことはよく知っているつもりですが……。やはり利一には敵いませんね |
- 『弟子入り』(幸田露伴、徳永直)
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内容 |
徳永直 | 師匠……お味、どうです? |
幸田露伴 | 味の釣り合いが取れている、繊細な味だ。見事な上達ぶりだ |
徳永直 | 師匠の教え方がうまかおかげたい! |
幸田露伴 | お前は飲み込みが早いな。いきなり手紙で弟子にしてくれと言われた時は驚いたが…… |
徳永直 | ……おりゃあみんなに助けられてここにおります。だからおりゃあのできることで、もっと恩返ししたいんです |
幸田露伴 | 人のため、か。殊勝な心がけだ。俺にできることであれば何でも教えてやる |
徳永直 | じゃあ……文学のこと、教えてくれんですか? |
幸田露伴 | ……前も言っただろう、ここにはたくさんの仲間がいる、わざわざ一人について学ぶ必要はない |
徳永直 | それは、そうですけんど……今までずっと一人で勉強してきて、わからんことも多かけん…… |
幸田露伴 | やれやれ、その貪欲さには負けるな…… |
徳永直 | ……お願いします。おりゃあ文学のこと、もっともっと学びとう思うとっとよ |
幸田露伴 | わかった、お前への助言くらいならできるだろう。わからないことがあれば聞きに来い |
徳永直 | っ……ありがとうございます! |
幸田露伴 | ふっ……こうやって頼りにされるのも悪くない、俺も変わったな |
- 『休息』(梶井基次郎、井伏鱒二)
+
内容 |
梶井基次郎 | 鱒二、最近は釣りをしているのかい? |
井伏鱒二 | なんだカジじゃないか。そうだな、暇を見つけては、だけどな |
梶井基次郎 | 俺はそこまで君が釣りを好むのが不思議だよ |
井伏鱒二 | いんや、魚と戯れていると退屈しないぞ |
梶井基次郎 | そうかい? 君はそうやってのんびりしてばかりだね。芸術的な冒険心が足りないんじゃないのかい? |
井伏鱒二 | いやいや、それは違うぞカジ。釣りにも新しい芸術にも必要なのは我慢だ 思い出してもみろ、俺達が目指した新興芸術つったって 何か形になったわけじゃなかったからな |
梶井基次郎 | ふーん、確かに君の言い分にも一理あるね |
井伏鱒二 | そうだろ? だからカジも一度釣りをしてみろ あのゆったりした時間から、新しい芸術的な境地に至れるかもしれん |
梶井基次郎 | そこまで言うのならやってあげてもいいよ。確かに俺も生き急いでいたところはあるから たまには谷川の水音をのんびりと聞くのもいいかもしれないね |
- 『生きる意味』(武者小路実篤、有島武郎)
+
内容 |
武者小路実篤 | 有島、どうだい、調子は? |
有島武郎 | 悪くないよ、この間はかぼちゃをありがとう、美味しかったよ |
武者小路実篤 | 美味しかったのは有島の助言のおかげだよ |
有島武郎 | はは、そうかもしれない |
武者小路実篤 | ……有島、ちょっとだけ明るくなったよね |
有島武郎 | ……そうかな? |
武者小路実篤 | そうだよ、よく笑うようになったもの |
有島武郎 | まあ、ここでの生活もかなり長くなってきたし、司書さんはいい人だし、みんなもよくしてくれてるし…… |
武者小路実篤 | そうだよ、みんな有島のことを気にかけているからね |
有島武郎 | ここでみんなと戦うことで、僕自身が今、戦う意味を、生きる意味を見つけられた気がする |
武者小路実篤 | ふふん、それでこそ有島だよ! |
- 『酒と歌』(吉井勇、山本有三)
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内容 |
山本有三 | あれ、勇じゃないか、どうしたのさ一人で |
吉井勇 | ああ、さっきまで色々いたんだが、今日はもう引き上げちまったな |
山本有三 | アンタはまだ飲むつもり……? |
吉井勇 | 寝つけなくてな……それに、歌が降ってきそうな気がしたから |
山本有三 | 歌を歌うことはいいことだ、アンタの歌はとてもいいものだからね。それでも酒は手放さないみたいだけど |
吉井勇 | 俺から歌を引き出すには酒が必要なのさ、俺はそういうやつなんだ |
山本有三 | おや、開き直ったね |
吉井勇 | 言っていただろう有三さん、人間はままならないもんなんだよ。だから俺は酒を飲み続けるのさ |
山本有三 | あははっ、ふっきれたね。どういう心境の変化があったのか |
吉井勇 | さあな、きっとここの人間たちのおかげだ。……どうだ?あんたも一杯 |
山本有三 | いいのかい? |
吉井勇 | ああ、一人で飲むには今日は静か過ぎる。降りてくる歌も降りてこない |
山本有三 | じゃあ、ちょっと付き合ってあげようかね…… |
- 『三番勝負』(岩野泡鳴、小川未明)
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内容 |
岩野泡鳴 | ん? ここの駒が、こっちにいって、え、あれ、そしたら王手近くね? |
小川未明 | ……泡鳴、早くしてよ |
岩野泡鳴 | うるせ、ちょっと黙ってろって |
小川未明 | …………………………………… |
岩野泡鳴 | うーん………………………… |
小川未明 | まだ? |
岩野泡鳴 | 今必死になって考えてるんだよ |
小川未明 | 遅いんだよ。どうやっても詰むってわかったでしょ、諦めてよ |
岩野泡鳴 | しつけーな、わかったよ、まいった! これで満足かよちくしょう! |
小川未明 | うん、その言葉を待ってた。これでこの三番勝負は僕の勝ちだね |
岩野泡鳴 | おい、もう一局だ! |
小川未明 | 泡鳴の、のろのろした将棋に付き合ってたらこっちまでイライラしてきちゃうから、やめたほうがお互いのためじゃないかな |
岩野泡鳴 | ぐぬぬぬ……こんの生意気なガキめ…… |
- 『本音』(岩野泡鳴、有島武郎)
+
内容 |
岩野泡鳴 | ……ていうかさあ、そもそも芸術に主義はいらないって、モノ書いてる側のおまえがいう? |
有島武郎 | 岩野さん……もう君の話は…… |
岩野泡鳴 | 自己の確立ってのも意味がわかんねーよ 自己って最初からあんじゃねーか、そこ自覚できてねーし、しかも自分も実践できてないっていうな |
有島武郎 | …………………… |
岩野泡鳴 | なにが言いたいのかわから…… |
有島武郎 | いいかげんにしてくれ!!! |
有島武郎 | ……僕の目指す愛や真実、芸術は存在するものだ。君はそれを否定することはできない……! |
岩野泡鳴 | ……ほー、少しは人間らしいこと喋るようになったじゃねーか |
有島武郎 | っ……どういう意味だ……? |
岩野泡鳴 | そのままの意味だよ、やっぱり男と男は本音でぶつかり合わないとな! それでこそオレのライバルだぜ! |
有島武郎 | ……僕は君が嫌いだ |
岩野泡鳴 | えっ |
有島武郎 | …………二度と僕の前に姿を見せないでくれ |
岩野泡鳴 | あっ、ちょっと待てよ有島! ゴメンって、怒らせたことは謝るからさ! |
有島武郎 | (もう勘弁してくれ……) |
- 『二人の間』(泉鏡花、里見弴)
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内容 |
里見? | ねー先生、もういいんじゃないですか? |
泉鏡花 | なんのことですか |
里見? | 秋声さんですよ |
泉鏡花 | そんなことですか。どうしてあなたが僕と秋声の間に入ろうとするのです |
里見? | そ、それは…… |
泉鏡花 | 誰かから頼まれたのですか? |
里見? | 鏡花先生にそんな風に言われるなんて心外です! 今は重大な事件の最中なんだから、 この図書館では皆協力して、穏やかに付き合っていくことが大事だと言いたいだけです |
泉鏡花 | ムキになるあたり、なお怪しいですね |
里見? | …… |
泉鏡花 | ふ…… |
里見? | え……ど、どうしたんですか先生 |
泉鏡花 | いえ、あなたが神妙な顔をしているから……ふふ、おかしくて |
泉鏡花 | 僕はもう秋声のことを怒っていませんよ |
里見? | 本当ですか? |
泉鏡花 | ええ。こちらに来てから秋声と話す機会が増えましたし 我々がギスギスしそうになると、司書さんが間に入ってくれますから あなたが心配することはないのですよ |
里見? | それって、もう秋声さんのこと、嫌ってないんですね!? |
泉鏡花 | まあ……相変わらず気は合いませんが。視界の隅にいるくらいなら良いと思っています |
里見? | よかったあ……僕、ずっと心配していたんです |
泉鏡花 | ですが、これまで通りの付き合いで、別段僕は困っていませんので |
里見? | え? それじゃあ、これまでと何も変わらないじゃないですか…… |
泉鏡花 | それでよいのです。紅葉先生がお望みになるように働くことが、僕たちの役目ですから |
- 『過ぎたるもの』(松岡譲、夏目漱石)
+
内容 |
松岡譲 | 先生、あれはやりすぎです。僕なんかが受け取れません |
夏目漱石 | おや、お気に召しませんでしたか |
松岡譲 | いいえ、とても良い短冊でした 先生の新しい漢詩を拝見できて、非常に嬉しかったです |
松岡譲 | ですが、正岡先生に尾崎先生、森先生のものまで一緒に持ってきて頂いたのには恐れ入りました |
夏目漱石 | 君が良い墨と硯を用意してくれたので、彼らも誘って句会をしたのですよ 気前よくくれるというので、短冊はみんなもらっておきました |
松岡譲 | ええ、僕も部屋の壁に明治の大文豪の短冊を並べる日がくるとは思いませんでした |
夏目漱石 | どうです、なかなかよいものがそろっていたでしょう? |
松岡譲 | なかなかなんてとんでもない……評判が評判を呼んで、あちこちのお弟子さんたちが、僕の部屋に代わる代わるいらっしゃいました 僕も芥川や久米に「君ばかりズルい」と言われてしまいました |
夏目漱石 | おやおや…… |
松岡譲 | 収拾がつかなくなってしまったので、折角頂いたものですが 司書さんに頼んで談話室に飾らせてもらうことにしました |
夏目漱石 | 余計なことをしてしまいましたか |
松岡譲 | いいえ。お気持ちはとても嬉しかったです |
夏目漱石 | それでは、君の部屋の壁はまた真っ白に戻ってしまったのですね…… |
松岡譲 | ええ……それで、僕も考えたのですが、ご迷惑でなければ 今度先生がなにかお書きになる時に同席させていただけませんか 先生の書をもっと近くで見てみたいと思っていたので |
夏目漱石 | そんなことで良いのですか? では、君の為に次の水曜日を空けておきましょう |
- 『真剣勝負』(高浜虚子、河東碧梧桐)
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内容 |
河東碧梧桐 | きよー! |
高浜虚子 | どうした秉 |
河東碧梧桐 | 俺は、お前に、俳句バトルを申し込む! |
高浜虚子 | 馬鹿らしい、断る |
河東碧梧桐 | うわっ、塩対応……そんな事言ってると勝負から逃げたって言いふらすぞ! |
高浜虚子 | 知りもしない勝負とやらで俺を脅すつもりか……いったいなんなんだ、それは |
河東碧梧桐 | まず、のぼさんが決めたテーマで一句詠むこと! 詠んだ俳句は匿名で並べて、どっちが良いかみんなに投票してもらうんだ。票が多いほうが勝ち、簡単だろ? |
高浜虚子 | ルールは分かったが……いいのか? 自分の俳句に優劣をつけるようなことをして |
河東碧梧桐 | うん、言いたいことはわかるよ。負けたらプライド傷つくもんね |
高浜虚子 | ではなぜ…… |
河東碧梧桐 | でもさ、俺はもっと、俳句って文学を盛り上げていきたい。俳句をもっと身近なものにしたいんだ だから俺たちがこういうことをやってみるのも、それはそれでアリかなって |
高浜虚子 | 秉……わかった。そこまで言うのなら、俺も無下にできない。受けて立とう |
河東碧梧桐 | よっしゃ決まり! 本気でかかってこいよな、きよ! |
高浜虚子 | こちらの台詞だ……負けるつもりはないぞ |
- 『艱難辛苦の先に』(久米正雄、山本有三)
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内容 |
久米正雄 | あ、山本…… |
山本有三 | 調子はどうだい、久米 |
久米正雄 | うん、最近は随分いいよ…… |
山本有三 | この間悩んでいた戯曲のことは解決したのかい? どうしても言えないなら、ワタシが坪内さんに言ってあげるけど |
久米正雄 | ああ、あれ……実は、書いてみることにしたんだ |
山本有三 | おや、そうなのかい? |
久米正雄 | うん、坪内さんに正直に話したんだ。そうしたら、「悩み苦しみ抜いた君が書く戯曲は、 これまで以上に多くの人に届くでしょう。それは君にしか書けないものです。 君の作品を待つ人の為に、もう一度立ち上がってくれませんか?」ってさ。結局断れなかったよ…… |
山本有三 | そっか。久米、なんだか吹っ切れた顔してるね |
久米正雄 | ああ、実際に机に向かってみると、僕にも書きたいことがあるって気づいたんだ…… |
久米正雄 | だけどやっぱり、一人で書いていると行き詰まりを感じるよ |
山本有三 | そうだねえ。戯曲は小説と違って、舞台や時間に制約があるからね。難しいよね |
久米正雄 | うん。誰かに相談できればいいんだろうけど…… |
山本有三 | ……じゃ、今度持っておいでよ |
久米正雄 | ……いいの? でも、まだ途中なんだよ |
山本有三 | 途中で良いよ。昔はよくあったじゃない 書きかけの原稿を脇に置いて、ああでもないこうでもないって言いながら、お酒を飲んだりしたよねえ |
久米正雄 | ……うん。そうだよね。それじゃ、近いうちに持って来るよ。そのときはよろしく頼むよ、山本 |
山本有三 | うん、待ってるよ |
- 『晴れた日』(斎藤茂吉、島田清次郎)
+
内容 |
島田清次郎 | …………よう |
斎藤茂吉 | 島田君。今日はどうした?薬が入り用なら、補習室へ行こうか |
島田清次郎 | いや、そうじゃない。アンタが座っているのが見えたから…… |
斎藤茂吉 | それなら、君もかけたらどうだ |
島田清次郎 | …………おう |
斎藤茂吉 | 体調はどうだ、島田君 |
島田清次郎 | ……最近はまあ良い、と言えるな 時々頭が痛くてキレそうになるが……薬で幾分抑えられている |
斎藤茂吉 | そうか。食欲はあるか? |
島田清次郎 | ああ、まあ、食いたくなくとも、あの司書とか泡鳴がわざわざ呼びに来るから…… |
あっ! いや、オレには本来食事など必要ないが……まあ、下々の者が気に掛けるので 一応口に運ぶようにしている |
斎藤茂吉 | 食べられているならそれでいい。睡眠は? |
島田清次郎 | 昨日は確か……っておい、これ、いつもの問診じゃないか!? |
斎藤茂吉 | ああ、そうだが。どうした? |
島田清次郎 | ……せっかくオレの方から話しかけてやったのに! つまらん奴だな! |
斎藤茂吉 | 私は医者だからな。そうだな、あまり面白みはないかもしれないな |
島田清次郎 | そういう話じゃなくて……オレと、文学者として話をしたいとは思わないのか |
斎藤茂吉 | ……君は、私の作る歌に興味があるのか? |
島田清次郎 | まあ……ただの凡愚かと思ったら、案外面白い歌を作る人間らしいからな 今日は気分が良いので、少し話をしてやってもいい |
斎藤茂吉 | ほう……そうか |
島田清次郎 | な、なんだよその顔は! オレを馬鹿にしているのか!? |
斎藤茂吉 | いや。そんなつもりはない。そうか。それなら少し雑談に付き合って貰おうか |
島田清次郎 | ふっ……この島田清次郎が相手をしてやるんだ。光栄に思え! |
- 『目覚めの一杯』(檀一雄、太宰治)
+
内容 |
檀一雄 | 太宰……! |
太宰治 | 檀……いきなり立ち上がって何だよー |
檀一雄 | 俺はここを出て行くよ。やっぱり俺は漂泊する運命(さだめ)なんだ…… |
太宰治 | 何言ってんだよ、俺はそんなの許さない。行きたきゃ俺を倒していけ!! |
檀一雄 | やめろ、止めるな太宰。俺は決めたんだ!! |
太宰治 | なんで俺を置いていけるんだよ!? 「我等生まれた日は違えど死ぬ日は同じ」って約束したじゃん!! |
檀一雄 | そんな約束してな……いや、したか? |
太宰治 | お前が行かないっていうまで、俺はぜーったい手を離さない!! |
檀一雄 | 太宰……お前どうしてそこまで…… |
太宰治 | うっ……ぐす……行かないでくれよ、檀……寂しいよ…… |
すぅ、すぴぃ…… |
檀一雄 | ……そうだよな、ここにはお前がいる。なんで迷ったんだ俺 |
太宰治 | うっ……死ぬほど頭が痛い 昨日何杯飲んだんだっけ? なんにも覚えてないわ…… |
檀一雄 | 目が覚めたか? 目覚めの一杯を持ってきたぞ |
太宰治 | うう……ありがとう。そうそう、俺にはこれがなきゃ……ってなにこの色 |
檀一雄 | 特製野菜ジュースだ |
太宰治 | なにお前どうしたの!? |
檀一雄 | べつに……これからは健康に気を付けて長生きしないとな、と思っただけだ 手始めに野菜ジュースだ。良い案だろ? |
太宰治 | ふーん。変な檀…… |
- 『リベンジ』(坂口安吾、檀一雄)
+
内容 |
坂口安吾 | く……最近調子悪いな…… また何かを死ぬほど食ってやりたい気分になってきた……ここは漆黒の安吾鍋か…… |
檀一雄 | おいおいおい、漆黒の安吾鍋だけはやめとけ カレー百人前ぐらいなら俺がいつでも作ってやるから |
坂口安吾 | ちょっと、その話はやめろって あれ二十人前くらいしか食べられなかったの、ホント後悔してるんだからよ |
檀一雄 | ん……そんなに食べてたか? |
坂口安吾 | 食べてたって。というか、なんでそんなどうでもいい話覚えてるんだよ |
檀一雄 | 人んちの庭に座り込んで百人前のカレーを食べるやつがどこにいるんだよ そんな大事件が起こったら、忘れられるわけがないだろ? |
坂口安吾 | 俺としてはそれは悔しい過去だぜ そんだけ大風呂敷を広げておいて百人前食べられなかったんだからな |
檀一雄 | ふむ、今ならできるんじゃないか? そうだ、あのうまいカレーを再現してやるから、カレーの大食い大会を開こう。ここの中庭でな…… |
坂口安吾 | リベンジか……よーし、やってやろうじゃないか! |
檀一雄 | そうと決まれば買い出しだ。ふっ、これは楽しくなってきたな…… |
- 『優しいお節介』(鈴木三重吉、内田百閒)
+
内容 |
鈴木三重吉 | ぐすっ……ぐす……南吉の馬鹿……もう遊んでやらないから |
内田百? | やあ三重吉 |
おや、いつもの元気はどうしたんだ |
鈴木三重吉 | ………… |
内田百? | 貴君、奥へ詰めてくれよ。まさか図書館のベンチを独り占めにはしないだろうね |
鈴木三重吉 | ちょっと…… お節介を焼きに来たならほっといてよ。俺は一人で考えて行動できる大人なんだから |
内田百? | まだ何も言ってないよ。俺は庭にくる可愛い小鳥を見に来ただけさ |
だけど友達が悩んでいるなら話を聞かないでもない |
鈴木三重吉 | ……ハァ |
……南吉が悪いんだよ。一人で飛び出して行っちゃって 「ちゃんと周りを見てないと怪我するぞ!」って言ったら、泣いちゃったんだ |
内田百? | そうなのかい。南吉君は、きっとびっくりしてしまったんだね |
鈴木三重吉 | なのに俺ばっかり怒られてさ……俺の話は誰も聞いてくれないんだ…… |
内田百? | 貴君も勢いあまって、怒鳴ってしまったからねえ あれは反省すべき態度だよ |
鈴木三重吉 | ……わかってるよ、分かってるけど |
内田百? | それならいいんだ。貴君は立派だったよ 言い訳をせずに、涙をこらえてじっと我慢していた |
鈴木三重吉 | ……違う。ちゃんと俺の目を見て謝った南吉のほうがえらいんだよ |
俺も南吉に謝らなきゃ |
内田百? | さすがは三重吉だ。一緒に行ってやろうか? |
鈴木三重吉 | ……うん。……ありがと、百? |
- 『ファン第一号』(草野心平、宮沢賢治)
+
内容 |
草野心平 | 賢治ー! 聞いて聞いて! |
宮沢賢治 | どうしたの心平 |
草野心平 | さっき、司書さんが宮沢賢治ファンクラブに入ってくれたんだ! |
宮沢賢治 | えっ? 宮沢賢治ファンクラブ……そんなものがあるんだ |
草野心平 | ぎゃわろ、知らなかったっけ? 会員は光太郎さんに中也に南吉くんに横光さん、そんで司書さん……あ、ちなみに おいらは会長だから、当然 |
宮沢賢治 | 知らなかった……もう、そんなことしなくていいのに、恥ずかしいよ |
草野心平 | だって……賢治はすごいやつなんだって、伝えるのがおいらの仕事だから。それは昔も、今も、ずっと変わっていない から |
宮沢賢治 | 心平……うん、ありがとう、ずっとボクのことを考えてくれたんだよね |
草野心平 | 賢治はおいらに詩人としての人生を与えてくれた存在だから、当たり前! |
宮沢賢治 | ……えへへ、告白されたみたいで照れくさいなぁ |
草野心平 | どうしたの賢治? 泣いてるの? みんな賢治のことが大好きなんだよ、泣かなくていいよ |
宮沢賢治 | うん、大丈夫……心平、本当にありがとね |
- 『切れない腐れ縁』(山田美妙、二葉亭四迷)
+
内容 |
山田美妙 | おぅい長谷川くん、こんなところで寝てると風邪をひきますよ 鼻提灯をぶら下げた君の姿は、さぞかし滑稽でしょうねえ |
二葉亭四迷 | ……ん……なんだ、またあんたか 美妙、あんたは懲りずに俺に話しかけてくるな |
山田美妙 | 古い友達なんですから、ちょっとやそっと袖にされたって気にしやしませんよ これを見てくださいよ、シュークリーム、君も食べませんか? |
二葉亭四迷 | ……うーん……うるさい。もうひと寝入りしたいんだ…… |
山田美妙 | 刮目してください、長谷川くん! このシュークリーム、僕がクリームを詰めたんです。美味しそうでしょう? そりゃあもう美味いに決まっているんです。ね、食べなきゃ一生後悔しますよ |
二葉亭四迷 | なぜそれを俺に……一人で食えばいいだろう がめついあんたがものをくれるなんて、どういう風の吹き回しだ |
山田美妙 | ひひひ、僕もお節介だと自覚はしているんですけどね 昔の友人のよしみってやつでしょうか、君と一緒に食べた方が美味いような気がしたんです |
二葉亭四迷 | ……ああ、それならそこへ置いておいてくれ 気が向いたら頂くよ |
山田美妙 | そうですか、そう言ってくれると思っていました! ようし一番いい奴をあげますよ 感想聞かせてくださいよ、きっとですよ |
二葉亭四迷 | ………… |
……形は不揃いだし、皮が破れてクリームがべちゃべちゃと袋についている…… しかし……この甘い匂いはなんだか懐かしいな |
- 『一枚上手』(山田美妙、尾崎紅葉)
+
内容 |
山田美妙 | 紅葉は変わりものですねえ。よっぽど人の世話をするのが好きなんですねえ |
尾崎紅葉 | そうだな。お前という厄介者を御することができるのは我くらいなものだ いや、違うな……司書も汝の扱いがうまくなってきた |
山田美妙 | そうなんです、君も司書さんもうまく助け舟を出してくれてますからね 僕は無意識に人と軋轢を生んでしまう星の下に生まれたみたいですが、人には恵まれていますねえ |
尾崎紅葉 | ふむ。司書からしてみれば、美妙の面倒を見ることも業務の一環ということか…… あれはあれで、大変な役回りだな |
山田美妙 | それでね、司書さんのお陰もあって、僕は楽しく生活できていると思っていたんですが、 紅葉にもお礼を言っておこうと思ってね |
尾崎紅葉 | なぜ汝が我に礼を? 面倒事を起こして周りを振り回すのは汝の専売特許みたいなものであろう。我も慣れたものよ |
山田美妙 | 昨日夢を見たんです。幼友達だった君と、机を向かい合わして暮らした日々 親友同士だったあの時分の生活が今も続いているなんて、なんだかとても嬉しくてね |
尾崎紅葉 | それについては同感だ 甘ったれの汝がぐだぐだと言いながら我の後ろを歩く様は、子供の頃となにも変わらんな |
山田美妙 | んなっ……、そんな子供の頃の話をいつまでも…… 僕だって、少しは成長した気でいるんですがねぇ…… まぁいいや、今後も甘ったれの僕をよろしく頼みますよ |
尾崎紅葉 | ふふ、当たり前だ。我らの間で遠慮など不要 あの頃のように、互いに借りてきた本を交換して読み耽ったり 二人で文学談義をしてみるのもよかろう |
山田美妙 | あっはっは! わかってますね紅葉 それじゃ今日は、二人で楽しく語り明かしましょう! |
やれやれ、昔の軋轢を覚えているのかいないのか……紅葉にはかないませんね…… |
- 『アナタ好みの』(夢野久作、江戸川乱歩)
+
内容 |
夢野久作 | …… |
江戸川乱歩 | 如何ですか? ワタクシの新作トリックは? |
夢野久作 | ……素晴らしいです! 狂気に満ちています! |
江戸川乱歩 | そうでしょう。アナタの異質さは全て見抜きましたから アナタ好みのトリックを考案するなど容易いことです |
夢野久作 | アッハッハッハ! ……こんなに喜ばしい日がこれまであったでしょうか! 敬愛する乱歩さんが私のために新作を! |
江戸川乱歩 | 正直に言って、アナタは油断ならない方です。その言葉も信用なりません とはいえ、我々の趣味が合うという事実は確かなようですからね |
夢野久作 | フフ、私のような日陰者がこのような知遇を得ることができただけでも私は満足ですよ この世知辛い世の中、おちおち私好みの話を見ることも叶わなくなっていましたからね…… |
江戸川乱歩 | それは何よりです。フフ、これからのトリック考案に張り合いが出ますね…… |
夢野久作 | フフ、これからも楽しい生活ができそうです…… |
- 『旅の土産』(夏目漱石、内田百閒)
+
内容 |
夏目漱石 | おや、百?君。しばらく顔を見せませんでしたね |
内田百? | あっ漱石先生、ご無沙汰しています 先日の旅がとても面白かったので、原稿にまとめていました |
夏目漱石 | なるほどそうでしたか |
内田百? | 久しぶりにすらすら書けました 金のために書かねばと時間に追われて書くよりも楽しいし、筆が進みますね |
夏目漱石 | ええそうですね。紙とペンの間に自然と浮かび上がってくるものの方が 本当という気がします。出来上がったら、私にも見せてもらえるのですか? |
内田百? | もちろんです! ……しかし漱石先生に目の前で読んでもらうのは、やはり緊張します |
夏目漱石 | ふふふ。大丈夫ですよ、気負わずにいらっしゃい |
内田百? | ううっ…………言いにくいんですが、実はお見せするのにまだまだかかるかと…… あの金はまだ手元になくてですね……俺もまことに相済まぬと思いますが…… |
夏目漱石 | いいんですよ。君の旅の思い出話を利息にもらっておきますからね |
内田百? | そういうことなら喜んで伺います。旅先で買ったお土産の甘味を持って! |
夏目漱石 | おや、それはとても楽しみですねえ |
- 『年長者の心配り』(泉鏡花、広津和郎)
+
内容 |
泉鏡花 | ああ……どうして水辺ではなくベンチの下に蛙が……これでは安心して座ることなどできません 火ばさみはどこでしょう。このおぞましい生き物をどこかに追いやらなくては |
広津和郎 | 鏡花さん? ……おや、珍しい。蛙がいますね。ほらおいで。水辺に戻してあげよう |
泉鏡花 | 和郎くん、本当に助かりました。なんとお礼を言って良いか |
広津和郎 | 当然のことをしたまでです。今でも蛙は苦手なんですね |
泉鏡花 | 蛙は不衛生ですから。蛙の体液を浴びるとイボが出来るとか…… |
広津和郎 | そういえば、蛙のつるつるした表皮には微量の毒が含まれていると聞きました |
泉鏡花 | な…… |
何故それを早く言わないのですか! 早く消毒しなくては……これで手をお拭きなさい それから、直ぐに綺麗な水で洗い流していらっしゃい。一刻の猶予もありませんよ! |
広津和郎 | 大丈夫です、自分で出来ますから。落ち着いてください |
泉鏡花 | ……まだ動悸がしています。ちゃんと手洗い場の消毒液を使いましたか? 爪の中の汚れはブラシでこするのですよ。なければ僕の持っている予備をあげますから…… |
広津和郎 | ああ、はい、きちんと洗ったので、もう綺麗になりました。 今も自分のことを気にかけてもらって嬉しいです。ですが、もう幼い子供ではありませんから |
泉鏡花 | いくつになろうと関係ありません。年長者のいう事には素直に従ってください |
僕のために不衛生なものに素手で触れるなど……あなたの勇気を讃えたいところですが、 自分の身を大切にしなくてはいけませんよ。これもあなたのことを思って言うのですから |
広津和郎 | やれやれ……今回のお説教は、紅葉先生に輪をかけて長くなりそうだな…… |
- 『師匠の恩返し』(尾崎紅葉、泉鏡花)
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内容 |
尾崎紅葉 | どうした鏡花、なにか思い悩んでおるのか |
泉鏡花 | 紅葉先生……いえ、何でもありません。 ……紅葉先生にお気遣い頂くなんて、僕は弟子失格ですね |
尾崎紅葉 | よいよい。汝を叱責するために声をかけたわけではない。 どれ、たまには我が茶でも淹れてやろう。大人しくそこへ座っておれ |
泉鏡花 | そんな……、お待ち下さい、紅葉先生! |
……頂きます |
尾崎紅葉 | どうだ? |
泉鏡花 | とても美味しいです……僕の淹れたものより、ずっと味がふくよかで…… 茶葉の香りも引き立っています |
尾崎紅葉 | ふふ。そうか |
泉鏡花 | ……あの、やはり僕が淹れたお茶が、お気に召さないのでしょうか? 申し訳ありません、必ず紅葉先生のお口に合うお茶を淹れますので…… |
尾崎紅葉 | 我が日頃嘘を言っておると申すのか? 汝が淹れた茶が一番美味いに決まっておる |
泉鏡花 | ですが……僕の力不足を知らしめるために、お茶を淹れてくださったのでは? |
尾崎紅葉 | いや、これは露伴に頼んで淹れてもらった茶だ。鏡花を唸らせるとは、流石だな |
泉鏡花 | どういうことですか、紅葉先生 |
尾崎紅葉 | はっはっは、悪いな鏡花。汝があまりに素直ゆえ、種明かしが遅れたのだ |
泉鏡花 | 何故こんな真似をなさるのです やはり僕は紅葉先生の一番弟子にふさわしくないということですか |
尾崎紅葉 | いや、そうではない。確かにこの茶は美味いが、我には少し熱すぎるな 汝は我の好みを理解し、茶を飲む時刻に合わせてふさわしい茶葉を選んでくれる だから我は鏡花を信頼し、すべてを任せておるのだ |
泉鏡花 | ……紅葉先生は、すべてお見通しなのですね |
尾崎紅葉 | ふふ。さあ、何を悩んでおったのか話してみよ いつもの美味い茶のお返しに、我が汝を助けよう |
- 『不良と優等生』(伊藤左千夫、吉井勇)
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内容 |
伊藤左千夫 | ヨッシーくん最近はちゃんとしてるね 日が高いうちから飲んでることも無いし |
吉井勇 | そうだな……飲んでるとうるせえのがいるってのが大きいが |
伊藤左千夫 | まさか、っていうまでもなくそれは僕のことだね |
吉井勇 | あとは、そうやってちまちまと考えちまうことが無くなったからだな 飲んでるよりマシなことが多くなったと、うん |
伊藤左千夫 | おお……ちょっとは成長したみたいだね! 偉い偉い! |
吉井勇 | やめろって、お前こそ最近俺に馴れ馴れしくないか? 前は俺にあれやこれや指図してたじゃねえか |
伊藤左千夫 | だってヨッシーくんみたいな駄目な生活して歌を詠んでた人は 目を離すとすぐ駄目な生活をしようとするじゃない? そういうの、目の前でされたくないもの |
吉井勇 | やれやれ、品行方正な健康優良児様の言うことは違うな |
伊藤左千夫 | 別に上から目線で言ってることじゃないよ! |
吉井勇 | わーってるって、お前みたいな人生楽しい人間の言うことにも一理あるってな |
伊藤左千夫 | え……素直に僕を褒めてくれた。ありがとうヨッシーくん! |
吉井勇 | ったく…… |
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