夏目漱石 | おや、こんなところにも感謝祭のポスターが……なかなか目を惹く素敵なデザインですねえ |
菊池寛 | これは絵が得意な連中が用意したそうですよ。流石に上手いもんだな |
久米正雄 | 松岡、買うものはこれで全部だったかな。なにか忘れている気がして…… |
松岡譲 | ええと……あっ、後ひとつ残っていたよ。図書館に来た子供たちに配るお菓子を取りに行かないと |
菊池寛 | 金は払ってあるんだろう? 引きとるだけなら俺が行ってきてやろうか |
夏目漱石 | 折角ですから、皆で寄ってみてはどうでしょう |
松岡譲 | はい。お土産を買うお金を残していますので、一緒に見繕ってもらえると助かります |
山本有三 | それは良い考えだ。ちゃんと働いている者にはご褒美が必要だからね |
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山本有三 | 随分賑わっているねえ。見ているだけで楽しくなってくるよ |
夏目漱石 | この店は和菓子も洋菓子もあるのですね。贅沢で美しい光景ですね…… |
松岡譲 | 漱石先生、こちらのお菓子はいかがでしょう。今日買ったお茶に、よく合うと思います |
久米正雄 | あっ、こっちのお菓子も美味しそうだな。ねえ松岡、これも先生好みの味だと思うよ 両方買おうよ |
夏目漱石 | ふふふ。贅沢な悩みですねえ |
山本有三 | こらこら二人とも。皆で食べる差し入れだろう? ちゃんと選んだのかい? |
松岡譲 | あっ……確かに、山本の言う通りです 皆が喜んでくれるものでなければ意味がありませんね |
久米正雄 | じゃあこれは僕が個人的に買うよ。それでいいだろう? |
夏目漱石 | お待ちなさい久米君。それは年長者の私の役目です それに、まだ君たちの好みを聞いていませんよ。さあ、どれにしますか? |
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菊池寛 | おっ、これは龍の好みに合いそうだな。それにこっちは直木が欲しがりそうだ…… よし、一箱買って行くか! |
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松岡譲 | 皆が手伝ってくれたお陰で、一気に買い出しが済んでしまいました 帰ったら改めてお礼をさせてください |
久米正雄 | 松岡、堅苦しいお礼なんか良いよ。それより、荷物をこっちに渡して |
松岡譲 | う……うん。悪いね久米 |
山本有三 | 譲、そちらの手の荷物はワタシに貸しな 皆で分け合えばどうってことないんだから |
菊池寛 | 松岡はもう少し、図書館にいるがめつい奴らを見習った方が良いな アイツらは一人で背負いこもうなんて気さらさらないぞ |
夏目漱石 | 松岡君、君はもう少し人に甘えてもいいのですよ 人に頼れば荷物の重さは半分に、菓子の喜びは倍になるのですから さあ、菓子の包みは私が預かりましょう |
松岡譲 | ……有難うございます。お菓子を頂く前から胸が一杯です |
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岩野泡鳴 | かーったりぃよなあ、感謝祭の準備なんてよ! |
島崎藤村 | あれ……泡鳴、すごく楽しみにしてたじゃない。どうして? |
正宗白鳥 | ……岩野が描いたポスターのイメージ案があんまりで、ほとんど直されたからだろう 出来上がったものがそこに貼ってあるが、俺は妥当だと思う |
田山花袋 | どれどれ? おおっ、良い感じじゃん |
岩野泡鳴 | ケッ、センスのねえ奴らだ! オレはもう協力してやんねー |
島崎藤村 | それは困るよ。これから号外の下刷りを作るのに |
正宗白鳥 | まだ終わっていないのか……原稿は全部集まったのか? |
田山花袋 | おう、それはばっちりだ。表に出てこなくても、鬼編集長様の威光は健在だからな 秋声は芝居の練習があるとか言って逃げようとしたから、口述筆記で書かせた お陰で面白いもんが出来たぜ |
国木田独歩 | それは重畳。……で、誰が鬼だって? |
田山花袋 | あっ……ははは、独歩も聞いてたのか…… |
国木田独歩 | あーあ、主筆は辛いなあ。こうやって身内にまで陰で愚痴られなきゃいけないのか。 毎日身を削ってネタ探しして、手が足りない時は原稿取りまでやってるのに |
田山花袋 | そう言うなって! おまえが実行委員長の仕事があって忙しいっていうから 感謝祭限定の号外はオレたちで作ったじゃん! なあ? |
国木田独歩 | それはどうも有難う。で、スクープ写真は確保できたか? |
島崎藤村 | それが……まだないんだよね。図書館に生息している、白くて細長い生き物の写真…… |
正宗白鳥 | 足跡らしきものがあった場所に交代で張ってみたが、ついに現れなかったな |
岩野泡鳴 | やっぱ犬か猫かそういう感じの奴なんだって! |
田山花袋 | あれはカワウソだって皆で話しただろ!? |
島崎藤村 | 一応武者くんにイメージ図を描いてもらったんだ。足跡の写真とこれで、なんとかなるかな |
国木田独歩 | へえ、武者小路に頼んだのか。……うん、こいつはなかなか…… いや、武者小路のせいじゃないと思うけど……なんだろうな、こののっぺりした感じ |
田山花袋 | まあまあ、他にもあっと言わせる記事を用意してるから! 独歩は出来上がりを楽しみにしとけって! |
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吉川英治 | 蘆花くん、介山殿! 手伝いに来たぞ |
横光利一 | 食堂からの応援です。感謝祭に向けて作って頂いた野菜を引き取りに来ました |
徳冨蘆花 | ありがとう。すごく助かる…… あっちの箱に入っているものは、全部調理用だよ |
吉川英治 | これは二人では運びきれないな。よし、我らで手分けして運ぼう |
中里介山 | 来てくれてよかった。今、私と蘆花は難局に直面していてな 君たちも知恵を貸してくれないか |
川端康成 | 難局とは……? |
徳冨蘆花 | うん……ここに付いている足跡、なんだと思う……? 最近時々畑に付いているんだ。花袋くんたちが調査してくれたんだけど、分からなくて…… |
吉川英治 | なにっ、作物泥棒か? 蘆花くんが丹精込めて作った野菜を勝手に持ち去るとは許しがたい。犯人を捕まえなくては |
川端康成 | ですが……これは本当に動物の足跡……なのでしょうか? |
横光利一 | 川端の言う通りです こちらの腹這いになって地面を擦る跡はまだ分かるが もう一方は、まるで二足歩行しているようではありませんか |
中里介山 | ああ。人間の足跡でないことは確実だが、皆目見当がつかない 生き物図鑑で調べてみたが、このような足跡を残す生き物は見つからなかった |
徳冨蘆花 | 分かっているのは、この不思議な足跡と、キュウリが好きみたいってことだけなんだ 畑を荒らすわけでもないし、少しぐらいなら持って行ってくれていいんだけどね |
その子たちも図書館の仲間……だもんね |
川端康成 | ……真摯に付き合えば、相手が動物でも心を通わせることは出来る 今はまだ、その姿を見ることはかなわなくとも…… 彼らの方から歩み寄ってくる日が来るやもしれません |
横光利一 | ……ああそうだ。では、彼らが好む野菜を使ったメニューを考えてみるのはどうだろうか 中庭でお客に野菜を振舞えば、彼らがふらりと姿を現すかもしれないし 野菜の美味しい食べ方をお客に教えることも出来る。一石二鳥ではないか |
吉川英治 | それは名案だ! よし、早速実行委員会に掛け合ってみよう |
中里介山 | それなら私も手伝おう。野菜料理には一家言あるぞ 知識を授けるのも得意とするところだ |
徳冨蘆花 | うん……みんなありがとう |
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